Diary & Column

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室岡 Column 3
■ 99年鈴鹿300km耐久
  クラブマンレース唯一の耐久

9月10日(金)サーキット入りして、まず阪口がマシンに乗り込み、久しぶりにシビックをドライブする。去年阪口が乗っていたシビックはEK4で、今年の室岡のマシンはEK9型であり、初めてのEK9であるのに、さすがに数ラップしただけで32秒台に入れてくる。室岡が新品タイヤでフルアタックしたようなタイムだ。その後も阪口主導でセットアップが進められていく。
「室岡さん、もうちょっとリアが出るようにしたい」
「フロントを1段硬くしたい」
・・・
フォーミュラ乗りである阪口が、クイックでピーキーな挙動を好むのに対し、室岡は今年が1600cc初めて、鈴鹿初めて、スリックタイヤ初めてというドライバーなので、普段はやや弱アンダーに振ってある。その中間(最大公約数)、つまり室岡がスピンせずに乗れて、阪口が妥協できるポイントを探さなくてはならない。これが耐久の面白さであるのだが、メカの泉は大忙しだ。そうこうしているうちにセットアップは進み、夕方には満足のいくタイムが出せる仕様になっていた。
翌11日 予選日、改正とは言えないがまだまだ残暑が厳しい。昼過ぎから第1ドライバー、第2ドライバーの順でタイムアタックだ。まず第1ドライバーの室岡がコースイン、N1・GT・RSの3クラス混走なので、速度差のあるRSクラスを先に行かせる。車の仕上がりは上々、十分にタイヤを温めてからアタックだ。3周目に2'33"544をマークするが、その後はタイヤがタレてタイムが伸びず、予選時間10分間を残しピットに帰る。
トップタイムのつもりであったが、第4戦の覇者笹尾選手が100分の4秒上回り、クラス2番手に甘んじた。しかし、予選正式結果は第1と第2ドライバーの良い方のタイムが採用される。つまりグンと気温の下がった夕方に行われる、強者(助っ人)が集まる第2ドライバーの戦いになるというのが大方の予想だ。従って、室岡も2番手タイムでよしとしている。何と言ったって、こちらは阪口だ。その阪口も自信満々でコースインする。早々に2'31"921をマークしピットイン、余裕だ。すると、普段は見慣れないEG6が2'03"871でトップに躍りでる。鈴鹿では見慣れないドライバーで、フルコースで去年のインターの上位ランカーを(しかもEG6)で1秒以上引き離してのタイムである。マックスレーシングのみならず、ほかチームもざわめき立つ。すると阪口は、血相をかえて再びコースインするが、ベストタイムを更新できない。阪口には阪口のプライドがあるのだ。予選が終了すると、ピットでわなわなと肩を震わせていた。総合の予選結果は、大方いつものN1クラスのレギュラーが並んだが、ポールのみ突如として現れたEG6がさらっていった。

その夜は久しぶりにみんなで、夜飯に行った。室岡・オーナーの植田らの30代のおじさんチーム、20代中盤のメカチームの中、若い阪口はみんなの「からかわれ役」だ。「EGに負けてちゃ、F4チャンピオンも大したことねーな」「室岡さん、人選ミスだよ。きっと明日、スプーンあたりで飛び出して、しくしく泣いてるよこいつ」などと、言われ放題である。もう毎度のことなので、そんなからかいは気にも止めないのだが、心なしか今晩はビールも箸もすすまない。ポールをとれなかったことが、よほど悔しかったのだろう。しかし室岡は、阪口を心底買っている。室岡が「日本で、カート乗らせても、フォーミュラ乗らせても、ハコ乗らせても、なに乗らせても速いのは道上龍と阪口良平だけだぜ!」と戯けてみせても、みんなの愛情がこもった言いたい放題にも慣れっ子のハズが、やはり元気が無い。レーシングドライバーという人種は、こんなものなのだ。
1999 第6戦、「鈴鹿300km耐久」と名付けられた、鈴鹿クラブマンレース唯一の耐久レースである。耐久なので当然二人一組で組むのだが、各クラス、ポイントのかかったドライバーはここぞとばかり強力な助っ人を連れてくる。現在のポイントリーダの室岡も、ここで勝てばグンと有利になる。チームの人脈の中で、現役のインタードライバー・S耐ドライバー等、いくつかの選択肢があったが、室岡の希望で今年フォーミュラコリアに参戦していて、普段室岡と仲の良い阪口良平が組むことになった。阪口は96年 F4のダブルチャンピオン、97年はF3、98年はS耐とシビックインターに参戦していた強者であり、パートナーとしては申し分無いドライバーであった。

明けて12日(日)、まずまずの天気の中、午前中は最終チェックが行われる。給油の練習もOK、ドライバーチェンジもOK、あとは走るだけだ。
N1クラスは、タイヤがワンメイクではないので、途中でタイヤ交換が必要ないS耐用の硬めのタイヤを履く。去年S耐を戦っていた阪口には馴染みのタイヤである。その阪口がスタートドライバー、目一杯引っ張って室岡にバトンタッチという予定だ。上のシビッククラスも、助っ人ドライバー等蒼々たる面々で、それらの強者がスタートドライバーであり、室岡はグリッド上で、一つだけ気になる事を阪口に囁いた。「良平、お前があのインタードライバーと互角かそれ以上なのはよーく分かってる。でも今日はN1クラスに勝つことが大前提なんだ。お前がトップで帰ってきてさえくれれば俺は絶対に抜かれない。だからシビッククラスとつまらない競り合いはしないで、申し訳ないが引くところは引いてくれ」「分かってますよ室岡さん。俺も鈴鹿のフルではまだ勝ってないんです。今日は絶対に勝ちましょう」
硬い握手をした後、決勝のコーナリングが始まった。ゆっくりと1周戻ってきて、ペースカーが離れる。グリーンランプ・・・スタート!特に大きな混乱もなく、東コース区間を駆け抜けていく。スタート時はクラス2番手、上のシビッククラスに割って入っている格好だ。スプリントと違い無茶をする車もおらず、大きな混乱も無く西コース区間へ消えていく。もしかすると阪口の視界には、多数のインタードライバーが乗り込むシビッククラスではなく、予選で前に行かれた例の"謎のEG6"しかないのかもしれない。しかしそれも束の間、2ラップを終えるころにはブチ抜いて帰ってきた。阪口のヘルメットの中の表情が手に取れるようだ。
その後も阪口は、予選通りインタードライバと互角に渡り合い、N1クラスではぶっちぎりのトップをひた走る。レースも中盤に差し掛かり、室岡にチェンジする。「室岡さん、思ったよりいいっすよ、タイヤ。路面もOK。ただ、たまにブレーキが奥まで入ってしまうので、気をつけて!」そんな言葉を受け、室岡がコースインする。大方、阪口の2秒落ち位のペースでタイムを揃えていく。相変わらず老練のドライバーのようだ。阪口が築いたマージンのため思わぬ上位におり、周りはシビッククラスばかりで、さすがに歯が立たない。引くところは引き、「無理をするな!無茶をするな!」と自分に言い聞かせ、ラップを重ねる。

このレースは、室岡にとって生まれて初めての耐久レースであった。ずっとワンメイクレースには参戦してきたので、鈴鹿に来る今年までは耐久に縁が無かった。室岡には一発の速さがない。しかし付き合ってきたエンジニアからは異口同音に「室岡さんは車に優しいねぇ」と言われてきたし、車をあてない、飛び出さない、壊さないので、密かに自分では「スプリントより耐久のほうが、自分にあっているのではないか?」と思ってきた。それを確かめるにはとてもいいチャンスだ。
再び阪口にチェンジした時には、2位に1分以上の差があり、その後も毎周ビハインドを拡げトップでチェッカーを受けた。完勝だった。マックスレーシングの他の2台も4位、8位で完走し、ピットが安堵に包まれた。「さすがだな!」「やっぱお前は器用なドライバーだな!」阪口は昨日までとは180度違うみんなの対応に、得意満面の笑みで応えていた。